TAKEO MABOROSHI TERMINAL

2018.08.13

写真展『井上俊正展』フォトレポート

5月12日、MAB GALLERYで写真展『井上俊正展』を開催しました。写真家の井上氏は展覧会会場となった本ギャラリーを含む建物のオーナーで、普段は佐賀県武雄市で斎場を営まれている方でもあります。

今回の展覧会では、プライベートで撮りためていた写真から、父と過ごした日常を切り取った風景、イタリア滞在中に撮影された作品など未発表作品を含め8点ほど展示しました。

男性が二人写っているこの作品は、作者の父を撮影したものです。ハットを被り、ステッキを片手にウールのコートを身にまとった紳士の背中は力強く、どこか優しさをも感じることができます。大事な写真であると語る作者の眼差しからは、凛とした父親だったのであろう姿がうかがえます。

この写真はイタリアで撮影されました。バスで移動中、窓から街並みを見ている時に撮影された一枚です。荒廃した壁と背の曲がった老婆の写真は、朽ちてく様への賛歌を捉えた美しい作品であり、火が燃え尽きる時に一層明るく輝くような、滅びるものに宿る「死」という人間共通の美を表現しています。

写真は全部で8点、古い写真もあるのですが全体的にどことなく懐かしさを感じました。

この展覧会で展示された作品は、井上氏がこれまで撮影した写真のほんの一部でしかありません。ストックの写真を見ると、被写体をダイナミックな構図で捉えたものや、詩情豊かな作品といった幅広い角度から物事の一瞬を切り取ることができる作家さんであることを知ることができました。

現代における出来事の移ろいの速さとあふれる情報の中で、見ようとしなければ見ることの出来ない、または、見知らぬうちに通り過ぎて行った美しさを、作者は一枚一枚丁寧に捉え、作者なりの美学を持って伝えようとしているのではないかと感じました。